インサイド・ヘッド

2015年7月18日公開。ディズニー/ピクサー最新作「インサイド・ヘッド」ピクサー20周年記念作品です。

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ネタバレなしの感想ですが、本作は非常に深く考えられた作品であり、哲学的なテーマが含まれています。言うなれば「アニメで学習!たのしい哲学 感情編~カナシミはなぜ必要なの?~」って感じ。もちろん子供でも楽しめますが、この映画のメッセージを理解するのは少々難しいかもしれません。むしろ人間の成長を間近で感じられる人、子供を持つ親のほうが突き刺さることが多い映画だと思います。伝統を重んじるディズニースタジオに対し、革新や進化に重きを置くピクサーらしい作品です。誰もが知っているけれど、まったく新しい物語。

もともと字幕での上映はかなり少なめですが、吹替の声優さんは皆さんとても上手ですので、こだわりがなければ吹替がオススメです。とくにヨロコビのようなテンションの高いキャラクターに声を当てることは日本人だとちょっと難しいと思うのですが、竹内結子さんは本当に上手に演じていらっしゃいました。 

 

さてここからはネタバレありの感想です。

 

 

頭の中という舞台設定、特別な思い出からなる性格の島という発想がすばらしいと思いました。思い出のボールが並ぶ棚は脳みそのしわを表してるんですね。他にも想像力のテーマパークであるイマジネーションランドや思考を運ぶ列車、イメージの抽象化、潜在意識、夢を作る製作所、脳の構造や仕組みをわかりやすく表現しています。

 冷たいものを食べると頭がキーンとなることや、区別のつかない「意見」と「現実」、ふとしたときに頭に流れてくる曲、ズボンを履き忘れる夢、脳内彼氏などなど。誰もがわかるわかる、とつい頷いてしまう小ネタの数々。楽しかった思い出なのに、もう戻れないと分かると悲しい思い出に変わってしまうこと。司令部での出来事が、実際の体験とリンクしていくのが面白いです。それこそ「これは、あなたの物語」ってことですね。見終わったあと自分の脳内はどうなっているんだろうと想像してしまいます(たぶんイマジネーションランド発達しすぎてる)

ストーリーはヨコロビを中心に進みます。ライリーは11歳、父親の仕事の都合でミネソタからサンフランシスコへ引っ越すことになりますが、そこでの生活になかなか馴染めません。それを憂いたヨロコビはライリーのために奮闘。母親に「いつも笑っていてくれてありがとう」と言われ、ヨロコビはますます張り切ります。カナシミを押さえつけるほどに。物語の序盤は、カナシミはライリーの幸せのために必要のない存在、邪魔ばかりしている、というような描き方をしています。しかし徐々にヨロコビの自己中心的で独裁的な行動が目立ってくるんですよね。このころの喜びという感情は、願いが叶う、自分の思い通りになるなど、裏返せばわがままであり、自己中心的な感情。逆に悲しみは他人の気持ちをわかってあげる、優しさを持つ感情です。

これは少女の成長の物語です。それは感情も同じであり、ヨロコビは悲しみが喜びに変わることに気付きます。ライリーは家族で悲しみを共有し合ったことが喜びになりました。思い出のボールは、喜びの色と悲しみの色が混ざったもの。成長するにつれ、感情は豊かになるのです。最後のほうで、イカリが友情の島に「喧嘩するほど仲がいいエリアができた」と喜ぶシーンがあります。これも、怒りをぶつけ合うことで喜びが生まれる、という体験をしたライリーの成長が描かれています。

逆に大人になるにつれ無くしていくものもあります。その象徴がビンボン。ビンボンにはかなり泣かされましたが(笑)ビンボンを再び登場させなかったのはよかったと思いました。プリンセスのお城が壊されたように、ライリーは歌の力でロケットは飛ばない、月へ行くことは出来ないことを、もう知っているのです。しかし小さなころ育んだ想像力は、ひらめきやアイディアを生み出し、成長してもきっとライリーを助けてくれるでしょう。ビンボンがヨロコビを救ったときのように。

 

最後にエンドロールにはこんな言葉が出てきます。

This film is dedicated to our kids. Please don't grow up. Ever.

この映画は私たちの子供たちに捧ぐ。どうか、ずっと大人にならないで。

ライリーはピート・ドクター監督の娘がモデルです。ピート監督はこれまでも「カールじいさんの空飛ぶ家」や「モンスターズ・インク」で娘をモデルにしてキャラクターを描いてきました。もうこの監督の作品に娘の存在は欠かせないのですね。これは少女の成長の物語。それとは裏腹な親目線のメッセージに、微笑ましい気持ちになります。